小川原湖伝説 「 道 忠 幻 生 」
今からおよそ1300年ほど昔、橘中納言道忠みちただは、都での争いを避けるため出家し、京からはるか北の地、小川原に庵を結んだ。 息女の玉代姫たまよひめ・勝世姫かつよひめは、母の嘆き悲しみと病を案じ、父を尋ねてこの地まで来たが、父はすでに亡く、沼崎観世音となって祀まつられていた。
悲嘆にくれる二人の姫はある日夢枕で父の声を聞き、誘われるままに姉の玉代姫は「姉戸あねど沼(姉沼)」の主となる。 一方、妹勝世姫も漆玉しったまの沼にたどりつき、その主となるべく入ろうとしたその時、中から鰐わにざめが現われ、姫をめがけて飛びかかってきた。 姫は大蛇となり、三日三晩戦い続けたが勝負がつかない。 そこに忽然と父道忠みちただが現われ、鰐ざめに縄をかけ、漆玉の後ろにあった小さな沼に投げ入れた。 以来勝世姫が沼の主となり、「妹沼」といわれるようになった。それが今の小川原湖であるという。
青森県内では一番大きな湖であり、観光地、避暑地として四季を通じて利用できる小川原湖。 その湖畔には、八甲田の恵みを仰ぐ玉代姫の姿と、湖の安全と幸せを祈る勝代姫の姿像が建立され、訪れる人々に姉妹の優しい思いを今に伝えている。
解説/竹浪 比呂央